初心者なのにと思わないで欲しい。元来のオーディオマニアであり。機械には物凄くうるさいのだ。
ピアノは楽器屋さん巡りもそうだし、かなりの数の電子ピアノ・アップライトピアノ・グランドピアノの音を聞いている。
ピアノ(本物)を選ぶのに迷っている人は多いと思う。
例えばお子さんの場合、取りあえず電子ピアノを買って教室に通い、上手になり本物が欲しくなるとか。
自宅にアップライトピアノがあり、グランドピアノが欲しいと思い出したりとか。
いずれにせよ、上達したからそう思うのであり、それは実に正しい。しかしながら、現実にはそうはいかない。
住まいが団地やらマンション、一戸建てでも市街地と郊外では状況が異なる。また、防音室の設置や工事、それらが可能なのかによっても
状況は大きく異なる。
◆まず、ピアノがなぜ必要か◆
基本は住まいからなのだが、実際はピアノ重点で考えてしまうことが多いのではなかろうか。
昔ピアノ習って買ったけど、忙しくて気が付いたら何十年も弾いてなかったと言う人は非常に多いと言う。まあ、残念ではあるがそれでも家にピアノがあればまた弾くこともあり、昨今ではそういう人が多いようだ。大人のためのピアノ教室もあちこちでやっている。ピアノ(音楽)のような積み重ねが必要なものは、早くから手をつけないと確かに習得は難しい。そういった意味からすると、習い事をさせるのは間違ってはいない。
なんでも入る柔軟な脳は、小さい時だけと言っても過言ではない。
全く知らない者が、大人になってからピアノを始めるのは非常に困難を極める。大人には仕事があり練習時間も限られるし、引退してからでは時間はあれども知力の方が追い付かないことは理解に難しくないであろう。
◆ピアノ選択の条件、環境◆
ピアノの選択にかかる条件は、ピアノを極める(生計を目指す)のか、アマチュア(趣味)でいいのかの二つに一つしかないことになる。
前者であればそれ相応の投資を覚悟しなければならない。単純に考えて、ピアノ教室に通ったとして上級レベルに達するには10年はかかるとされる。
週三回の通いなら10年でも1800時間にしかならない。費用は100万円を超えるであろう。そこまで通うことは困難なので、年間10万円、5年にしても50万円はかかる計算となる。年間20万円なら100万円の出費になる。
独学ならばお金はかからないが、到達にも上達にも数倍、それ以上の時間が必要になるのは間違いがない。第一に子供に独学はあり得ない。
それほどにお金がかかり、習得に時間を要するピアノだが問題は環境であろう。ピアノが弾ける環境にあるかどうかが重要になる。
四六時中ピアノを弾いていて周囲に問題がないのか、そういう環境である。
音と言う物は、出している本人は全く気にならないが、周囲の物には騒音以外の何物でもない・・・、それをはっきりと認識しなければピアノの導入は難しい。
◆ピアノの音の性質◆
騒音と言う点では、戸建ても集合住宅も全く差がない。戸建てでは音が筒抜けになり、郊外なら数キロさえ届く。コンクリートの集合住宅では、戸建てより壁は厚い物の隣とは15センチや17センチの世界である。中低音は筒抜け同様、特に階下や隣は最悪であろう。
ピアノよりはるかに音の小さいステレオですら、普通の音量でもコンクリートは確実に音を伝えてしまう。このことは意外に知られていない。
筆者は実際、マンションの隣の部屋で自宅の膨大な音漏れを聴き驚いたことがある。壁は17センチ、隣の音は全く聞こえないのにである。それ以来ステレオは隣家不在の時以外音出しは止めてしまった。コンクリは堅いコツコツやドンドン、低音は良く伝えてしまう。掃除機の音は窓からしか聞こえなくとも、
掃除機をかけているゴロゴロ引っ張る音や、あちこちにぶつかる音は良く響く。
戸建ての場合は悲惨と言うしかない。防音対策の優れた最近のプレハブ住宅なら、防音レベルはコンクリート住宅に近い防音レベルと言えるのだが・・・。。
しかし、隣家との間隔が数メートルにも満たない場合は注意が必要なのは言うまでもない。
筆者の田舎の家は、隣と10メートル以上は離れていたのだが、楽器の音はまさに筒抜けであった。犬の声は100メートルは楽に届く。
ちなみに、犬の鳴き声とピアノは同じレベルである。もちろんピアノの価格や新旧に関わらず同じく音は出る。
◆防音が必須◆
要するに都会では、アップライトピアノ、グランドピアノを問わず普通の状態での演奏は難しいと言える。人間の聴覚は夜間程感度が増すので、夜間のピアノは禁物である。それでは、どうしたらいいのか。
答えは以下のようになる。
戸建ての場合は、防音工事をした防音室を作るか防音室を室内に設置する。集合住宅の場合は、同じく防音室を室内に設置する。ただし。防音室の重量は4.5畳でも1トン近くにもなるから、マンションでも設置には制限がかかるであろう。価格も既成のもので250万円はする。
既成の物はピアノ教室にある部屋と思えばよい。余裕も何もない、音も逃げ場のない狭い空間である。戸建てに防音工事をするならば、大げさになり費用も1000万円近くは覚悟が必要となる。
ピアノは、車とほぼ同じ予算程度で手に入るが、鳴らすのには結構敷居が高いというのが実態である。筆者もかかる理由で本物のピアノは断念した。
◆ピアノの音量レベルとは◆
ピアノは基本音量の調節ができない、またするべきものでもない。そうでなければ、生ピアノの意味はないと言っても良い。
しかし、90db~100dbの音量が普通に出ることをまず理解しなければならない。
6畳間において、控えめな音量でリスニング位置で聞くレベルは60~75dbである。筆者のアンプのボリュームは1~1.5程度、2までも行っていない。
なお部屋の暗騒音は深夜38db、昼間50dbである、夕刻5時で47db。スーパーの二階で測定する騒音は75db。スーパー4階65db、ビル工事中の幹線路上の騒音が71db~75db、総合病院の一階通路65db、二階待合57~60db、病棟昼間55dbが実測である。
◆音の大きさの感覚とエネルギー◆
つまり、重度難聴でもピアノの音は聞こえる(もちろん全ての音ではない)。ここで勘違いしやすいのが数値である。
デシベルは対数なので、感じ方が普通の数値とは全く異なることを知らなければならない。
つまり、6dbは6倍ではなく2倍、10dbは同じく10倍ではなく3倍、20dbは20倍ではなく10倍、30dbは30倍ではなくおよそ45倍、40dbは40倍ではなく100倍、50dbは50倍ではなくおよそ450倍、60dbでは60倍ではなく1000倍となる。このように、エネルギーは対数で変化する。
つまり騒音計で10db上がったとすると、3倍エネルギーが増しているが人間にはほぼ倍の音量に聞こえるはずである。10db減衰しているならば、ほぼ半分の音量に聞こえることになる。
◆住宅における騒音レベル、ピアノの音◆
コンクリートの防音について、125Hzから4000Hzまでの透過率は厚さ20センチで40dbから65db程度、500Hzで53db程度とされている(D-55)。また、窓ガラスは単層で15db~30db、防音には合わせガラスが必須となる。
ピアノの音は壁レベルで35dbから45dbの音が漏れており、窓を閉めても、窓からは70~85dbの音が漏れると言う計算になる。これは壁厚の厚い20センチであり、15センチの壁厚だとさらに遮音性が低下、50db程度の音漏れがあることになる。壁厚が50センチでも60db(500Hz)にしかならない。
そこまで極端でなくても壁の厚さを数センチ厚くしただけで、数dbは音量が低下する。
僅か数dbでも人間には半分の音量に聞こえるから、無駄ではない。しかしながら、ピアノの音は非常に大きいのだ。
ちなみに、ピアノ音源90dbの場合天井では10db減衰し80dbとなるが、壁厚20センチの場合損失は55dbとし、階上では25db(500Hz)の音漏れがあるが、低周波程遮音は落ちるので実質35dbの音漏れは生ずると考えられる。
8畳長辺の角に設置した場合、隣との壁の距離はおよそ4メートル、ピアノ音源90dbの場合壁面では78db、壁厚20センチ透過後は23db(500Hz)となり実質33db程度の音漏れは生ずると考えられる。ピアノ音源が100dbの場合はそれぞれ、45db,43dbとなる。
◆ピアノの設置環境◆
これにより、ピアノの設置はかなり限定されることがわかる。ピアノを置くならば一階、角部屋、二階住居なし(住民なし)が望ましいことになる。
そして、ピアノの置く部屋は広いこと、天井が高いこととなる。そして、徹底した防音対策を怠らないことであろう。
◆ピアノによる事件◆
今から大分前の1974年、有名な事件が起きている。「ピアノ騒音殺人事件」である。団地で起こった事件だが、階下から聞こえる子供のピアノの音に激怒した住民が母子3人を殺害したいたたましい事件である。死刑は確定したのだが、未だに刑は執行されていないと言う。
測定の結果は規定内数値であった(二階において基準内40db~45db)とされるが、、実際にはわからない。もし、窓を開け放ってあれば、間違いなく音は届くであろうし、閉めたにせよ、当時の窓ガラスではほとんど遮音効果はなかったはずである。この事件により、床の厚さが変わったと言う。
周囲にはまともな人間ばかりいるとは限らない、好まざる者にしてみればどんなに些細なことでも気になる物。それは確かに誰でも変わらない。
殺人は犯罪だが、犯人が自分は被害者だと言っている。確かにそうなのかも知れない。諸刃の剣なのであろう。
かかる被害を受けないためにも、我々はピアノの音には気をつけたい。
◆選択肢のない場合のピアノ◆
そんなせちがらい世の中で光明と言えば、電子ピアノである。比較的軽く、比較的価格が安い。音量は無段階調整、ヘッドホンも使えて夜でも問題ない。
引っ越しでもしなければピアノは無理というならば、これしか選択肢はない。もし、ピアノの代替えとして使うならば機種はある程度上級の物を選んだ方が良い。筆者は先行きにピアノもありかなということで、ヤマハのクラビノーバCLP-545を選んだ。もし、買い替えをしないならばもう少し上を購入が良いだろう。
最上位機種の方がスピカーの数もアンプも多く、よりダイナミックに演奏が出来るはずだ。
ただ、電子機器なのでピアノのような耐久性はないと考えた方が良い。電子機器は確実にグレードアップするから、持ち続ける必要もない。別項でも述べているが、普通の音量ではピアノの音にはならないということを知っていて欲しい。生の弦の響きに会いたければ、ピアノを弾きに行けばよいのだ。
割り切る必要はある。電子ピアノならではの付帯設備は十分に楽しい。これはピアノにはない特徴なので、暇があったら大いに利用するのが良い。
もし、技量がそれなりにあるのならヤマハでもAvantGrand(アバングランド)シリーズは良いと思う。しかし、N3の価格はグランドピアノも買える価格である。
◆習い事が当たり前で、その中でも人気がピアノ◆
確たる目的が無くて、ピアノを習わせる。それが時流なのだそう。
それで、最初の項に戻ることになる。