レンズの解像度がうんぬん言われて半世紀以上も経ちます。
レンズは人間の視力検査と全く同じで、検査方法も全く変りません。いや、変えようがないと言った方が正しいでしょう。
カメラも人間もレンズがあるのだから当然な成り行きです。
人間の視力は離れた所にあるチャートを見てどれくらい細かさを識別できるかを判断します。
今では測定器も随分コンパクトになったのは皆さんご存知でしょう。
これがレンズでいう解像度の検査で、細かな放射状の線の分離を調べることにあたります。
人間の目は経年により濁りを生じますが、カメラのレンズでは生成時の材料によるものが固体を決定付けるので経年変化は少ない
のが通常です。されども人間が白内障を患うように、レンズのコーティングが経年変化により剥げたり変色してレンズを曇らせることは多いでしょう。
人間の視覚にはコンピュータが内蔵されていて、眼球のレンズのずれもキチンと正常に補正して見ることができます。
オートフォーカスであり自動ゲイン調整でありマルチホワイトバランスでありハイダイナミックレンジでありまさに究極のレンズシステムが
人間の視覚システムには内蔵されていると思って間違いありません。
人間の視覚限界を超える解像度を持つレンズも存在しますが、解像度だけが全てではありません。しかし、
人間の解像限界を大きく下回る解像度のレンズはやはりレンズの使命を果たしてるとは言えません。
解像度はコントラストと切っても切れない関係があります。なぜでしょう。
コントラストは物に濃淡がどれだけあるかなので、濃淡があるほど像が細かくなるほど物のカタチが解るようになります。
つまり同じレンズでもレンズに薄幕をかけてコントラストを弱くした画像と、そうでない物とでは認識できる幅に差が出ます。
つまり、同条件ならコントラストが解像度を高めるように見えるのです。しかし、勘違いしてはいけません。
決して本来の固体の持つ解像度が変化したわけではありません。あくまでも見かけの差異なのです。
つまり、限界解像度が2350本と測定されたレンズがあるとしましょう。それはある条件化のコントラスト値の元での測定評価
であるということです。条件が違えば当然数値も異なってきます。
これらの解像度は比較をしやすくするため固定値の条件の元で、MTF曲線を測定し調べます。
このMTF曲線はレンズの性格が解る通信簿のようなものですが、解読は簡単ではありません。難解といっても差し支えないでしょう。
この曲線のデータか解像度の分布を表しますが、あくまでも固定数値です。実際の写真の写りはこれだけでは決まりません。
解像度を上げようとすると各種収差が多く出ます。収差を抑えると解像度が増します。レンズを大きくすると中心と周辺の差が大きく
なります。それを抑えるにはさらに複数枚のレンズが必要で重量もコストもかかり、効果は一つだけでしかありません。
非球面の技術が確立され、プラスチック張り合わせ(モールド)やガラス張り合わせの非球面」レンズが登場し収差は抑えられるように
なりました。以前はガラスを非球面に削っていたわけですから、格段の進歩です。
それでも簡単に収差は抑えられません。一つの収差を抑えてもまだ収差は残ります。どんどんレンズを追加していくと数十枚の
レンズ構成になってしまいます。それで異常分散レンズが開発されました。これによりレンズの枚数が激減したと言って良いでしょう。
例えばニコン70-200mmF2.8の新型はEDレンズ7枚。16群21枚というレンズ構成です。この異常分散レンズがなかったならさらに
20枚程度はレンズが増えたのかも知れません。
レンズの枚数が多いと光量が落ちるのではないかと、心配される方もいるかと思いますがそれは危惧です。
光は全く減衰することはありません。あなたの見ている夜空の星明りは何億年もかかって地球に届いているのです。
レンズの前面から入り抜けるまでの距離など全くないと同じです。ゼロと考えて良いでしょう。
それではなぜレンズにより減衰が感じられるのか、それは屈析により光が真っ直ぐに届いていないことを示しているからです。
まっすぐに入るならば減衰はしません。
また口径が小さければ集光力は劣りますので、明るくするためにはレンズの口径を大きくしなければいけません。
レンズは複数枚で磨きますので、レンズが大きいほどレンズ自体の価格は高価になります。同時に合わせる側のレンズも
複数存在しますのでコストは相当高くなります。大きく重くするメリットは多くはありません。
レンズの枚数が増えれば増えるほどレンズ表面に斜めに入る光は反射します。つまりはじかれる。そうです、レンズというのは
球面なのです。枚数の分だけ反射が起こります。そのまま素通りさせるには真っ直ぐ入射させなければなりません。
ニコンのナノクリスタルコートはこのレンズ表面の反射をなくし、透過率を高めたコーティングです。
十数枚のレンズを重ねてもほぼ素通しのように透過します。まるで1枚しかレンズがないかのような錯覚を呼ぶ優れたコーティング
技術です。
もちろん、各社ともコーティングには拘りを持ってレンズを開発しています。レンズの歴史はコーティングの歴史ともいえます。
コーティング面がアンバーに見えるものやグリーンに見えるもの、マゼンタに見えるものなどその種類は各メーカーの個性にも
なっているようです。
人間のように元来1枚だけと言うのが本来のレンズの姿なのですが、現実は相当に厳しいものと言わざるを得ません。
単焦点レンズはレンズ枚数が比較的少ないので、枚数の多いズームレンズよりも描写が良いという迷信があります。
今日ではもうこれは迷信といって良いでしょう。ただし、普及価格の商品についてはと但し書きをしましょう。
たとえば、ソニーの24-70mmツアイスズームレンズは、単体のレンズに比高します。
これはニコンの24-70mm、14-24mmmについても全く同様です。
ただし、300mmF2.8、400mmF2.8などのレンズはズームレンズを寄せ付けません。
もし、無収差のレンズがあったらどうでしょう。歪曲も、色滲みもない高解像度のレンズがあったらどうでしょう。
全てのメーカーが挑戦していることでしょうが、残念ながら市販品では達成されてはいないようです。
なぜならば、レンズは非常に重く大きくなることが必須だからです。
カタログのMTF曲線とレンズ性能診断サイトのMTF解像度診断テストを参考に、25本のマイチョイスレンズの性能を詳細に比較
して見ましたら、興味深い結果が出てきました。そしてその結果は、ネットでの商品購入レポートに良く出て論じられる傾向と
驚くほど近似していました。
いわゆる素人購入者の多くの人が感じる商品の性能の評価が、上記診断の結果に相似しているのです。
多くの消費者は解像度よりも歪曲と発色に厳しい目を向けていることが感じられます。解像度は次にくるようです。
そして、光学系以外のボデイの造りの良し悪しを非常に気にします。そして次は、同じ商品を持つユーザーの評判と意見です。
その次が価格と言う所でしょうか。
じつは、データというものはあくまでもデータなのです。ある一定の一条件だけでしか評価はありません。
実際の撮影被写体は測定条件と全く異なりますので、解像度の優れたレンズが良い絵を写すとは限らないのです。
人間の目は中心部分しか鮮明に見ていません。
ですから、均等に解像度のあるレンズはあまり意味がないのです。中心が優れたレンズで周辺が甘いレンズでも許容
する能力があります。また中心も解像度が及ばず周辺も甘いレンズは、柔らかい馴染みやすいレンズと認識することでしょう。
別の言い方をすれば、カリカリのレンズは人間の目の特性に合っていないのです。耳の音感曲線と同じで、カマボコならば
人間は不快な音と認識しません。フラットならば馴染まないでしょう。これと同じ感覚が視覚にもあります。
できるだけ人間の視覚曲線に近似したものが、レンズとして高評価のレンズとなるのです。
例を上げましょう。
現在ニコン初級機にキットの18-55mmレンズですがEDのものはこの価格としては非常に解像度が高く、評価の良いレンズです。
しかも価格が安い。レンズの口径も小さくコンパクトなので人気があります。
このレンズのMTF曲線及び実測データを見ると、このレンズの優秀性が見えてきます。
マイチョイスレンズ25種の中でこのレンズは真ん中やや上に位置します。解像度は18-70mmを超えています。
しかし中心と周辺の差は18-70mmに及びません。ここが価格差です。
中心の解像度は18-55mmとソニー18-70mmは同等ですがニコン18-70mmはかなり解像度は落ちます。
逆に中心解像度と周辺解像度の差は18-70mmが最も優れており25種中7番目で18-55mmは10番目ソニー18-70mmは
19番目と落ちます。
つまり後発であるソニー17-80mm、ニコン18-55mmは中心解像度が高い。これは時代の流れです。
ニコン18-105mmレンズは18-70mmレンズと性能は全くといってよいほど変らない。画像周辺での解像度落ちはやや少なく
優秀です。つまりニコンの18-70mm、18-105mm、18-55mmは性能が近似しており驚きともいえます。
またソニーの18-70mmは中心解像度がニコン18-55mm、18-105、、と同等なので通常の撮影では充分な実力を持って
いるといえるでしょう。
ソニーの18-55mmはわかりませんが、旧17-80mmよりは高画質が期待されるのではないでしょうか。
つづく