写真は身近なもので誰でもが撮れるものですから、視覚芸術という概念は誰もが持っていません。
芸術の技量は数値で量ることはできませんので、視覚芸術家の資格試験は存在しません。
ですから、プロとアマチュアに境界線はなく正にボーダレスの世界が写真芸術の世界と言う事ができます。
当然のことながら職人と芸術家は違います。写真で生計をたてていても視覚芸術家という訳ではありません。
水木しげる氏が朝日新聞の取材に、興味深いことを述べています。
写真の構図のことですが、
水木しげる氏は画家であるので構図はいちいち考えなくても決まるとしています。
なるほどと思いました。カメラは身近なものですから非常に安直です。押せば情景が切り取られますので何の苦労も努力も必要としません。
デジタルカメラの世界になりコストの心配がなくなり、益々安直度に拍車がかかるようになりました。水木しげる氏の言う通り、居合い刀を抜くような真剣勝負の写真は撮れない時代になってしまいました。
コンテストの写真は人物撮影が目立ち、当然のようにそれらの写真が紙面を飾ります。残念ながら視覚芸術とは言い難いもので、単に物珍しい写真や強い印象の写真に過ぎません。
写真に人物を配すると印象が強くなります。それが添景ならまだしも、意図的であれば視覚芸術としては失格です。
良く声をかけてから撮影すると言うことを聞きます。肖像権があることですから当然ですが、創造は自然が鉄則ですから意図された写真は視覚芸術とは呼べないものになります。
いちいち面倒ですがこの事実はどうしようもありません。
残念ながら現在は、写真家=視覚芸術家ではありません。
写真の技量は訓練すればいくらでも上達しますが、感性は訓練すればするほど衰退してしまいます。多くの写真家はその過ちに気付くことはありません。
練り物の写真を撮ってはいけません。
写真はビジュアルアーツなのです。