暑かった夏の日・・・。
私は帰りのバスを待っていた。
ベンチにはすでに先客の夫婦連れが座っていた。
目の前に、ワックスの空き缶で造ったゴミ箱が置いてある。
ねじった新聞と白いポリ袋・・・。 ふと気が付くと左から人の気配が。
足を引きずったホームレスだ。 すーっとゴミ箱に手を伸ばし、ねじり込んだ新聞紙と
ポリ袋を拾いあげる。 隣のベンチにおもむろに腰掛け、ポリ袋のひもを解き始める。
だが、何も残ってはいないようだ・・・。
バスがくる・・・。 私は窓際に座って様子を見て見ることにした。
あぁ、何か小さな弁当のパックを広げている。 黒いパックに白いご飯が見える。
キウイらしきものと、すももらしいものがのっている。 いんげんのようなものを・・・彼は箸で
ひとつひとつ食べている。 おかずの乗ってた銀紙をしずかにはずしては、
他のポリ袋にしまい込む。彼が白いご飯に手をかけた・・・。 ラップがしてある。
良く見るとそれは白いご飯だけのおにぎりで
異様に大きい・・・。 しっかりと三角ににぎられている。 彼は、箸で少しずつ口に運び込む。
ポケットに手をいれて何かを探しだした。 いくつもの白いポリ袋を引っ張り出す・・・。
白い割り箸が転げ落ちた・・・。 新しい割り箸だ。
ああ・・・、そうだったのか。 私は理解した。 やけに大きいおにぎりと、
キウイやすもも・いんげん。 彼は、心あるお店の人にもらったのだ・・・。
私は目頭が熱くなった。
明日は我が身、誰がホームレスを非難などできよう・・・。
雑踏の街、誰もが見て見ぬ振りをする。
自分は、握り締めた千円札すら渡すことができない・・・。 勇気の無い傍観者だ。
異常に大きな白いおにぎり・・・。 せいいっぱいの気持ちじゃないか・・・。
人間が人間としての人格を持っていた時代・・・それを、
おにぎりを・食べ物を分け与えてくれた人は
知っていたのに違いない。
何気の街
いつもと変わらぬ時が流れ来る・・・。
彼はホームレスなんかじゃない。 人の心が家なんだ・・・。
真っ暗な夜の空の彼方・・・。 やがて眩しい朝が来る。
ひとは悲しい夢追い人。 涙で前が見えません。
貴方は遠い夢追い人。 遥かな想いを刻みます。