前項で年代ごとアンプの重量を記しましたが、アンプは軽量化に進むことは無かったのです。ソニーがパルスロック電源から撤退し、その後のヤマハのX電源も凡そ2年で撤退しました。これには歴然とした理由がありました。メーカー側そしてユーザー双方です。
アンプが高出力かつ高性能になると、必然的に部品の単価は上がります。
重量を占めるのは、トランスでありコンデンサーでありシャーシー。
強度と安定性を追求すれば、重量は増えていくのです。 一方メーカーとしては、価格競争に打ち勝つためにはコストを削減するしかありません。電源トランス周りの重量は出力に比例して重くなってしまいます。設計者としては何としてもこのトランスを排除したかったに違いない。
かくしてトランスレスのパルスロック電源が誕生しました。
デメリットである高周波の漏洩は、シールドボックスで防衛しました。その箱の中に従来のトランスはありません。 重量は一気に減り、大きさの制約も無くなったのです。
もろ手を挙げて万歳三唱と言いたいところですが、そうはいかなかったようです。
10機種以上の製品が出ましたが、2年ほどで従来電源に戻ってしまいました。
ソニーがパルスロック電源を採用した同時期1977年から1979年、他社製品の重量は非常に重かったです。(前項参照)同価格帯でパルスロック電源よりも6キロから8キロ重かったのです。
もうお分かりだと思います。
ユーザーの総スカンじゃなかったかと。技術はユーザーの為なのかはたまたメーカーの為なのか、考えさせられる事態です。
突き詰めて言えば、ユーザーつまりオーデイオファイルなりオーディオマニアはアンプの軽量化を少しも望んでいなかったことになります。
さすがに30キロや40キロは重いが、10キロや15キロは許容範囲なのでしょう。
押すと動くような重量では、それこそユーザーの心も動いてしまうことでしょう。
いつでもそうですが、ソニーの対応は矢のように早いです。駄目だと分かったら躊躇しないのがソニーでありソニーの真骨頂なのです。
10年後のアンプ重量は同価格帯でほぼトップを独走しています。サンスイよりも重いくらいです。
我々ユーザーは、長年アンプを見つめ暮らしてきました。アンプに必要なのは電源であると誰もが心得ています。出力に応じてアンプは重くなるものと学んできたのです。
性能じゃない(性能だけど)部分も多々あるのがオーディオでしょう。
重さに対価を支払うのが実はユーザーなのです。昔のテレビのように中を見たらガラガラでガッカリはオーディオには許されないのです。
それ以後のソニーには心底感謝しています。
ヤマハもX電源と言う軽量化電源製品を、ソニー後の1981年から1982年に発売していいます。ソニーのパルスロック電源の頓挫に気付かなかったのかもう手遅れで発売したのか、その辺りは全く分かりませんが。ただ軽量化の理由は同じだと思います。
ヤマハのアンプはそれほど多くはありませんが、1980年代後半には従来型の重量級の電源製品になっています。この理由も恐らく同じでなのでしょう。
ソニー TA-F5 1977年 59800円 パルスロック電源 7.2キロ
内部を見るとガラガラで、えっと思ってしまいます。59800円現在で言えば8万円~9万円相当のアンプなのです。
ヤマハ A-6a 1981年 69800円 X電源 9.1キロ
ソニーに比べると、ガラガラ感はありません。普通そうですが、69800円、現在で言えば9万円位のアンプに相当する価格です。
サンスイ AU-D607 1979年 69800円 通常電源 15.5キロ
※画像はネットおよびオーディオの足跡様より引用致しました。
サンスイの15.5キロに比べ、ソニーは7.2キロ。8.3キロも差があります。
ヤマハの9.1キロでも差は6.4キロ。同ランクか少し下の製品1台に相当する重量です。
確かにこの重さこそがコストなので、削減したい気持ちは分からないでもありません。
しかし重量の削減は、多くのユーザーの理解を得るのは難しかったようです。
多くのメーカーは従来型のアンプを製造し販売をしていました。置き換えて良くなるならまだしもアンプの音の差は小さいのも現実です。軽さは手抜きを感じてしまうのがユーザーの心理。
考えてみれば、確かに手抜きなのかも知れないですね。